浙江省からやってきたタピオカミルクティー「新時沏」
いまや東京都内にも林立するに至ったタピオカミルクティーの店。台湾発祥と言われるが、現在実際には中国人による起業が多い。当地で2軒目となるタピオカミルクティー店「新時沏」はビルの2階にあった保育所跡。今月1日にオープンしたばかりだ。
この種の飲料はテイクアウトが主流という印象だが、此処には広いイートインスペースがある。喫茶店ユースができるというのはむしろ珍しいかもしれない。賃料が割安な郊外ならではだ。
パイナップルケーキなども置いていて、一見台湾色が強いが、実は中国国内に1300店舗を展開するチェーン店の日本1号店。本部は浙江省にあって、店長も同省出身。当面は在住中国人による需要を狙う。店長いわく「日本人にはタピオカミルクティーが人気らしいが、中国人にはむしろフルーツフレーバーの茶飲料が人気だ」という。中国からの原材料輸入は困難なので、中国本部のレシピに従って、店内で調合を行っているそうだ。
中国東北部の「ジャンクフード」をおつまみに ~中妙料理
いま空き店舗は引く手あまただ。元々飲食店向けの店舗物件が少ないため、空きが出るとすぐ埋まる。居抜き入居は十中八九中国店。ここもスナック跡にタイ料理屋「バーンタイ」が寂しく営業していたが、閑古鳥が営巣し、立ち行かなくなると、後釜はやはり中国店。メニューから推定するにまたぞろ東北系で、店名もまた妙なり。「中妙料理」と称する。店主いわく、画数やら風水やらあらゆる縁起を担いで決めた店名だそうだ。
夜の帳が下りて、再び偵察に訪れた。元はスナックだけに入りにくい。聞けばきょうがソフトオープン。瀋陽出身の母子の経営で、息子の方は小6から日本育ちで日本語が達者だ。一見して、ここは中国東北部本場のジャンクフードを食わせる店とお見受けした。本日のおすすめ、拌雞架(400円)はそれを象徴している。雞架とはニワトリ一羽からスーパーで売り物になるような部位を取り分けた残り。つまりは鶏ガラ。架というのは骨組みぐらいの意味だ。わずかに肉が付着した骨と少量のモツを唐辛子とパクチーで和えてある。これをジャンクフードと言わずして何ぞや。しかし、これがビールのツマミにはもってこいなのだ。メニューは何でも安い。高級メニューは皆無。それだけに、今後安酒目当てにはよいかもしれない。
でも経営はつらかろう。ただでさえ入りにくい店構え。あまつさえ、東北ジャンクフードばかりのメニューも、中国人なら自宅でできるレベルのものばかりで果たして流行るだろうか。店主も「飲食店の経験はないし、試行錯誤だ」と話す。とはいえ、逆転の発想。日本人はよほど中国通でもない限りこんなジャンクフードは知らないであろうし、ブログで紹介でもすれば物好きが集う店になるかもしれない。
芝園団地の「酸辣粉」
西川口は「チャイナタウン」などと持て囃されているが、隣駅の蕨に屏風を連ねたように聳える芝園団地こそ中国人が最も集まるコミュニティーだ。
その一角に低層階の商業施設があるのだが、そのまた裏手にその店はあった。
この看板が目印だ。
「吾輩は店である。名前はまだない」
というか店名を付ける気などないようだ。
ひっそりと佇む「酸辣粉」の店。奥まっていて今まで気が付かなかった。かなり入りにくい雰囲気だが、店内は午後3時も過ぎようというのに賑わっているように見える。
看板からしてかなりアウェー感だ。中国語が書いているからではない。この看板の色使いたるや、中国本土の街角に櫛比(しっぴ)する店を彩るあの色調と自体だからだ。これはテンションが高まる。
入店した。日本語は一応通じるレベル。
黒龍江省出身の女将は誰にでも好かれそうな明るい性格で、近所の常連客が足繁く通い詰めている。旦那なのか、男性の方は日本語がほとんど通じない。聞けば沖縄料理屋の居抜きで2年前に開店したそうだ。サツマイモ澱粉で作った麺を辛く酸味があるスープで頂く酸辣粉(スアンラーフェン)はそもそも四川省のものだが、自分の好物なので出しているという。「酸辣」という文字をよく中華料理屋で「スーラー」と書いてあるのは間違いだ。酸は酸っぱいという意味だから「酢」と混同してしまったのだろう。
写真は自家製の涼皮(リャンピー、500円)だ。黒酢でカスタマイズして頂く。辛さが足りなければ、卓上に自家製の辣油が置いてあるので、心ゆくまでぶち込めばよい。そして、大鍋で煮込む「醤牛肉(牛肉の醤油煮込み)」は予約必至、売り切れ御免の人気商品だとのこと。なかなか侮れないぞ、芝園団地。
ベトナム勢力じわじわ 東口MÃ LONG QUÁN
近年は周囲でベトナム語を耳にすることが増えている。今は外国人技能実習生が中心なので、起業して店を構える人はまだまだ少数なのだが、これから定着する人が増えるにつれて、爆発的に増えるのではなかろうか。
西川口駅東口の線路沿いを蕨方向に向かうと飲食店多数が入居する「The Terrace」がある。駅前に出て左手には一等地でありながら、権利問題で再開発から取り残されたバラック同然の店が立ち並ぶ一角があるが、ちょうどその裏手に回ると見えてくる。
1階に中華料理店の「金海湾」があり、2階にベトナム料理店が2軒入居している。うち1軒が今回取り上げる「MÃ LONG QUÁN」だ。
階段を2階に上がり、右側の扉を開けると真正面に見える。当地にはこれまでも少数のベトナム店ができては消えていったが、ここは賑わっているようだ。ちょうどこの日もベトナム人が鍋を囲んで大宴会中。狭い店内で無理やり席をつくってもらい着席。
メニューはそれほど多くないが、日本人が知っている代表的なものは一通りそろえてある。日本語訳がかなりヘンなのはご愛嬌。そして、ベトナム北部でよく食べられる犬肉は「犬蒸し」「犬あげ」「焼き犬」という三段活用と来たもんだ。愛犬家が見たら卒倒必至だが、現地の食文化なのだから尊重するしかあるまい。ちなみにベトナム産の犬肉を販売する卸業者が存在するそうだ。少なくとも日本産ではない点は加筆しておく。
そして、空芯菜と牛肉の炒めもの(にんにくマシマシ)は無難だった。しかも周囲の中国店とは味付けもやや異なる。
ドリンクメニューにはハイボールやホッピーがあるが、酒の卸業者の言うがままに置いただけらしく、店員は日本の酒文化を全く理解していない。ハイボールを注文したら、ウイスキーの水割りがジョッキで出てきたし、ホッピーセット2つと注文したら、中央にホッピーの瓶、そして氷が入ったジョッキを2つ出された。
「........」
ひとしきり沈黙が流れた後、「あのー、ナカ(焼酎)は?」と尋ねるもやはりコミュニケーションが成立しない。ベトナム人客のうち、日本語ができる人の助けを借り、なんとかナカの入手に成功するまで3分を要した。ホッピー1本を2人でシェアしたのもそういえば人生初かもしれない。
3階にカラオケルームを併設している。入り口まで潜入を試みたが、店内からは日頃の恨みつらみをぶちまけるようにエネルギッシュなベトナム人の歌声が漏れ聞こえた。ベトナム人と同伴なら面白いかもしれない。なお、店のバイトのハーちゃんは西口に新たなベトナム店を来年にも出店する野望を抱いており、行く末が楽しみだ。
星数多ある中国店の中で、インド/ネパール系の店は瞬く間に淘汰された。そんな当地で果たして中越紛争は起きるのか?商才に長けた人たちだから意外とうまくいくかもしれない。頑張れベトナム勢!